(関西大会90予稿、HTML版)
スケールスペースフィルタリングを用いた 信号処理へのファジィ推論の導入
森 和義 土井滋貴 松田 稔 志水英二
大阪電気通信大学 奈良工業高等専門学校 大阪市立大学
1.まえがき
本研究は、マルチスケール記述を利用したスケールスペースフィルタリング(以下SSFと略す) を特徴抽出に用い、ファジィ推論をその抽出された特徴の認識に用いた処理系を提案し検討する。その信号認識のプロセスを図1に示す。
図1 認識プロセス
2.FPK復調の評価実験
SSFとファジィ推論を利用した処理系の例としてFPKの復調を取り上げる。FPK(Fingerprint Pattern Keying)は、SSFの応用の1つとして筆者らが提案している、フィンガープリントのパターンマッチングを利用した情報伝送方法で、フィンガープリントのいくつかのパターンをキーとして、コードを伝送する。フィンガープリントのマッチングは次のように定義できる。
‖V,Vr‖ ≦ Lth -> VはVrとマッチする
else where -> VはVrとマッチしない
V 受信信号のフィンガープリントパタン
Vr 基準フィンガープリントパタン
Lth マッチング距離のしきい値
‖,‖ マッチング距離
FPKの変調は異なるフィンガープリントをもつ送信波形を組み合わせて送信信号データを構成することで行い、復調は受信信号をSSF処理してえられたフィンガープリントからキーとなるパターンを見つけ出す作業を行う。
フィンガープリントをそのままファジィ推論することは困難なので、ここではフィンガープリントの基底部の孤と孤の間隔、孤の頂点の高さ(σの値)の2つ要素を入力とし、各コード毎のフィンガープリントパターンの持つ要素の固有値をメンバーシップ関数とし表わしている。
3.評価実験結果
ファジィ推論における受信信号とそのフィンガープリント、ファジィ推論への入力、ファジィ推論結果及びコードを図2に示す。これらは処理プログラムのデモンストレーション画面のハードコピーである。FPKの受信信号の復調結果を表1に示す。これはシミュレーション実験として実際に空気中を伝送させた信号のフィンガープリントを計算し、それを認識させた結果である。ニューラルネットワークによる認識結果を併せて示す。結果を見るとニューラルネットワークを用いた認識では再学習による認識率の向上が見られる。しかしファジィ推論を用いた認識方法の方が認識率は優れている。この処理の例では信号の違いはフィンガープリントの形状の定量的な差として反映される。従ってこの定量的な差を認識すればよいことになり、フィンガープリントからファジィ推論への特徴量の受渡しが容易でありファジィ推論での高い認識率が得られた。しかし、信号の位相差を認識するような場合、その差はフィンガープリントのパターンそのもの(位相幾何的情報)の違いとして現れることになり、ファジィ推論への特徴量として表現することはむずかしくなる。
図2 ファジィ推論によるFPKの復調の様子
表2 空中伝送実験によるFPKの復調結果
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*prop.A:模擬受信信号による学習
prop.B:prop.Aで正解した受信信号を加えて再学習
6.まとめ
いくつかのシミュレーション及び伝送実験によりフィンガープリントの認識おけるファジィ推論の有効性が認められた。
参考文献
1)土井,志水,松田: 水中情報伝送におけるスケール・スペース・ フィルタリングに関する一考察; 海洋音響研究会誌,vol.15, no.1,pp.38-45 (1987)
2)土井,高橋,松田,志水:ファジィを用いた信号処理;システム制御情報学会第3回シグナル・システム・コントロール・シンポジューム講演論文集, F1 (1990)