テルミン・ドライブ 中間報告概要(2003.08)

  現在、私たちの生活において、身の回りには様々な道具や機械がある。これらの道具や機械を使用した作業を行うとき、作業効率は、使用者の習熟度によるところが大きい。特に入力インターフェイスは、作業効率に大きな影響を及ぼす。そこで私は、人間の習熟度に関係せず、作業効率を低下させない入力インターフェイスのデザインが必要であると考えている。現在までに、これらのインターフェイスには、様々な方法が検討されてきたが立体情報や空間情報を入力するインターフェイスはまだ十分に構築されているとは言えない。

 そこで、私たちはこれら立体情報や空間情報の入力インターフェイスとしてテルミンに着目した。テルミンとは古くに発明された電子楽器であり、2本の縦方向と横方向に設置されたアンテナと、手との間の静電容量の変化を利用して音を発生する楽器である。私の研究ではこの非接触で操作を行う楽器に着目して、空間上での手の動作をコンピュータへの入力インターフェイスに応用できないかと考えている。また、現在用いられている一般的な入力インターフェイスは、キーボードやマウスなどの接触型のインターフェイスが主流であるが、最近、ビデオカメラなどを用いた非接触型のインターフェイスが開発されている。これらのインターフェイスでは、一般に操作量のフィードバックは取り込まれた動きをディスプレイに表示して確認しているので視覚にだけ頼っていることになる。そこで、私はより良いインターフェイスのために聴覚の利用、具体的には音程のフィードバックを用いることにより、その操作性がさらに向上するのではないかと考えた。

 これまでの研究経過として、従来からの非接触型のインターフェイスの方法であるビデオカメラを用いて、コンピュータに位置情報を与え、コンピュータから視覚と聴覚による操作量のフィードバックがなされる装置を作製した。そして、操作時に音程のフィードバックがある場合とない場合に分けて操作性の比較を行った。実験の方法は、コンピュータの画面に示された「0」から「5」の数字のボタンに対して、指定された数字の入力を行うもので、操作性を見る尺度として被験者の操作時間を計測する。結果として、被験者は音程のフィードバックがあったほうが操作時間が短くなり操作性がよいということがわかった。これは被験者が的確に位置に応じた音程を捉えられているからではないかと考えられる。
 次に、ビデオカメラを用いず、テルミンのみを用いた方法を検討した。その方法は、テルミンから発生する音をコンピュータに入力し、その音の周波数を得る。この周波数からコンピュータは位置情報を知ることができ、それを画面上に表示する。実験は前述と同様に行った。その結果前述で用いた実験と同様に被験者は音程のフィードバックがある方が操作時間は短くなった。これらの実験を通じて、入力操作を行う際に、視覚のフィードバックに加え、聴覚のフィードバックがある方がインターフェイスとして優れているということがわかった。
 更に、テルミンを複数用いれば多次元の入力操作が可能になると考える。そこで、これらの原理を利用した非接触型の3次元入力も検討している。

 これまでの研究を基に、空間を利用したインターフェイスの実験を行っていくにつれてわかったこととして、入力される立体情報や空間情報の視覚や聴覚でのフィードバックは言わば間接的なフィードバックであり立体や空間の入力情報として一定のわずらわしさが存在することが感じられる。そこでこのような言わばバーチャルなインターフェイスを用いるのではなく、実体のあるインターフェイスを用いれば良いのではないかと感触を得た。ここでいう実体のあるインターフェイスとは例えば、実世界において粘土細工のような物をインターフェイスの装置として立体入力を行うなどである。これにより直接的に形状などの立体情報を自在に変えて入力することができる。また、普段コンピュータに触れる機会のない人でも簡単に操作することができると考える。