風景の識別と空間周波数に関する考察
(99年度奈良高専紀要:HTML版)

土井滋貴

Discrimination of Landscape Image based on spatial frequency

  Shigeki Doi

 一般的に風景や景観を考えるとき、人は空や森、木や花といった自然なカテゴリと都市や工場、ビルや機械といった人工物のカテゴリを容易に見分けることができる.しかしその視覚的な物理量は何かと問われると明快に答えること難しい。本稿ではこの2つのカテゴリを「自然風景」と「人工風景」と名付けてその物理的特徴の違いを考察する。

 いくつかの解析の結果、画像の方向性に最も違いが現れることが分かった。

 

1.はじめに

 人にとっての快適性を様々な角度からとらえる「快適科学」あるいは「環境科学」は、近年盛んに研究されており、そのアプローチも工学だけでなく心理学、認知科学、生理学など多種多様にわたる(1)(2)。

 生活環境における快適性を考えてみると、たとえば殺風景なオフィスに観葉植物や花などを置くことによって、そのオフィスの雰囲気が心地よくなることを誰もが経験的に知っている。この現象は観葉植物や花が絵に描かれたものや写真でも同様の効果があり、視覚的な要素が大きく作用していることが推測される。

 そこで、環境における快適性を考える1つの方針として、これらの環境要素を目から入る画像と考え、その画像の特徴量と快適性の関係を分析する手法が有用である。本稿ではその第一ステップとして「自然風景」と「人工風景」について考察する。

  2.自然風景と人工風景

本稿では風景画像を図2.1(a)のような雲や樹木、花、山など自然物の風景画像を「自然風景」と定義し、図2.1(b)のようなビルや道路など人工的な建造物の風景画像を「人工風景」と定義する。

 これらの風景を図2.2の様に単純化して考えると、自然風景と人工風景の間には画像の規則性の違い、画像の方向性の違い、画像が含む直線成分の多さの違いがあると推測できる。

 そこで、これらの推測に基づいて風景画像の特徴量の抽出を行い、自然風景と人工風景の間において、抽出した特徴量の差が見られるかを評価する。

 

(a)自然風景    (b)人工風景       

     図1 自然風景と人工風景

 

 (a)自然風景   (b)人工風景       

   図2 単純化した自然風景と人工風景

 

3. 風景画像が持つ特徴

 

 画像の特徴の抽出法には様々なものがあるが、その中でも画像濃度の平均や分散は、簡単に計算できる。

最初に、風景画像に対して原画像と1次微分画像の濃度に関する特徴量を計算し、自然風景と人工風景の間に差が生じるかを調べる。

 サンプルデータとして図3に示すような、自然風景5種類、人工風景5種類を用いた。結果のグラフを図4〜6に示す。 結果から分かるように原画像そのものの濃度については、平均・分散共に自然風景・人工風景間で差は見られない。1次微分画像の濃度の平均値は、若干の差が見られる。また、分散を見てみると「ユングフラウ」の様に自然風景にも関わらず、人工風景に近い特徴が得られている。

    図3 自然・人工風景原画像

(256×256ピクセル,256階調グレースケール) 上段:自然風景 下段:人工風景

図4 原画像平均

 

図5 原画像分散

図6 1次微分平均

 

図7 1次微分分散

計算プログラムのソース(C言語) 

4.空間周波数の特徴

 図3に示したサンプルデータに対して2次元フーリエ変換を行い、得られた結果(パワースペクトル)の特徴を検討する。得られた各周波数成分の値を、対応する画素の濃度と考えることによって、画像としての側面からの特徴抽出を行う。図8にサンプルデータのパワースペクトルを示す。図8のパワースペクトル画像について、3章と同様に濃度平均と分散を計算する。

 パワースペクトル画像の濃度平均が大きいと言うことは、原画像に含まれる周波数成分が低周波から高周波に渡って多く存在しているような、はっきりとした画像であることが考えられる。また、パワースペクトル画像の濃度分散は空間周波数の振幅値のばらつきを示しており、これが大きいと、その原画像はある決まった周期を持つ画像であると考えられる。逆にこれが小さいと、どの周波数成分も同じように存在していることになる。

 パワースペクトル画像の濃度平均と分散を計算した結果を図9、図10に示す。結果より、人工風景の方が濃度平均、分散ともに大きな値を示す傾向があることがわかる。

  コスモス1      コスモス2     ユングフラウ      小笠原       北海道

 

    横浜        香港         上海        東京         幕張

図8 サンプル画像のパワースペクトル

図9 パワースペクトルの平均

 

図10 パワースペクトルの分散

  5.方向特徴

   図8をよく見ると人工風景には中心から放射状の線が観測される。この線は画像かある方向に対して強い振幅、つまり模様を持つこと表している。自然風景にはそのようなものは見つけられない。つまり人工風景には方向性があることが推測される。

 そこでこの方向性の強さを抽出するために、図11に示す扇型のフィルタを考えそのフィルタで制限されるスペクトルのパワーの分散について計算を行う。

 その結果を図12に示す。図12を見るとこれまでの特徴量よりもはっきりと自然風景と人工風景との間に違いがあることが分かる。

 

図11 扇形フィルタ

 

図12 フーリエ特徴q(θ)の分散

  6.おわりに

 「自然風景」と「人工風景」についていくつかの特徴量を調べた。その結果「自然風景」と「人工風景」ではその画像の方向特性に最も違いが現れることがわかった。  

謝辞:

本研究の1部は奈良工業高等専門学校、川端克昌君、同専攻科上田悦子君の平成10年度卒業研究および特別研究として行われた。両君に感謝いたします。

参考文献  

(1)長尾三生:"快適科学",海文堂

(2)大野秀雄・他:"快適環境の科学",朝倉書店

(3)上田悦子,土井俊介,土井滋貴:"モルフォロジーフィルタを用いた風景画像の解析",信学技報PRMU98-210(1999-01),pp.135-142