免疫系モデルと有方向性モルフォロジーフィルタによる識別系

上田 悦子  土井 俊介  土井 滋貴

奈良工業高等専門学校

"Recognition System using Immune System Model and Directional Morphological Filter"/

Etsuko Ueda, Shunsuke Doi, Shigeki Doi/ Nara National College of Technology

 

1.はじめに

 筆者らはモルフォロジーフィルタによる画像の消失と生体の免疫系の自己・非自己識別の機能の相似性に着目した画像識別系を提案した[1]。本稿では方向性をもつデータの処理に対応する有方向性モルフォロジーをこの識別系に導入する。

2.免疫系モデル

 いくつかの図形集合を考えるとき、その図形に対して Erosion または Opening によって図形が残るものと消えるものに分離できる。例えば特定の構造要素での Erosion 後に残った図形集合 Ised、は  

Ised={i|in -b≠φ,i⊂I} 

 iは1つの図形を構成する連続したピクセルの集合

 bはサイズdの原点対称な構造要素のピクセルの集合

 Iは図形全体の集合、-はErosion演算

 

のように表せる。その様子を図1に模式的に示す。このことを生体免疫系の自己・非自己認識の観点から、抗原提示細胞の役割はモルフォロジーフィルタ処理に、抗体はフィルタ処理の結果の状態に対応していると考えられる。

3.有方向性モルフォロジーフィルタの導入

 モルフォロジー演算において、方向性をもつ構造要素を用いると有方向性モルフォロジー演算、囲い込み処理、重なり処理が可能になる[2]。図2に有方向性モルフォロジー演算による囲い込み処理を模式的に示す。囲い込み処理では有方向性Dilationを行った後、外部の点を始点として塗りつぶしを行い、さらに全体を反転する。すると方向性に関連性のある図形が抽出される。図3に3つの集団を形成する方向情報を持った点の集合に対して囲い込み処理を行ったシミュレーション結果を示す。図3からわかるように図左の方向が揃わない集団、図右の構成に欠損のある集団は処理結果が空集合となり非自己と認識でき、図中央の方向、構成とも揃っている集団は集団の関連性を示す図形が現れ、自己と認識できる。

 図1 Erosion結果による自己・非自己の分離

  図2 有方向性モルフォロジーによる囲い込み

     非自己    自己    非自己

 図は上段から、方向性を持つデータ、有方向性Dilation結果、

 塗りつぶし結果、反転結果(識別結果)

   図3 囲い込みによる自己・非自己識別

 

4.まとめ

 有方向性モルフォロジーフィルタを免疫系モデルの自己・非自己識別系に導入することにより、方向性のあるデータ同士の関連性を識別することが可能になった。

         参考文献

[1]上田・他:"免疫モデルを導入したモルフォロジーフィルタによる形状識別",  画像の認識・理解シンポジューム,MIRU'96

[2]土井・他:"有方向性モルフォロジーとその画像処理への応用",   情報処理学会第53回全国大会,4N-08